高校生の頃、同級生で仲が良かった男の子に、A君というのがいました。
A君の家は母子家庭で、あまり裕福ではなかったが、A君はそれを気にする様子もなく、明るくて良いやつでした。

しかし、普段は明るいA君が、表情を曇らせる瞬間が二つありました。ひとつは高校生になって、ほとんどの子がスマホを持っているのに、A君は基本料金が安いからという理由で、かなり古い型のプリペイド携帯を使っているせいで、LINEの交換や、流行っているゲームアプリのことで仲間に入れない時。新しく友達になった人と連絡先を交換する時の、A君の恥ずかしそうに携帯電話を取り出す姿はいま思い出しても、切なくなります。

もうひとつが、父親の話題が出た時です。思春期だったA君は、やはり離婚して家を出た父親に、複雑な感情を持っていて、どうしても憎しみに似た感情があったようです。
しかし、お父さんの方では、一緒に住んでいなくても、親子としての絆が切れることは避けたいらしく、定期的に電話してきては、A君を食事に誘ったり、遊びに誘ったりしていたようです。
けれど、私たち友達と一緒に居る時に、お父さんから電話が掛かってきても、A君は着信を確認すると、小さく舌打ちをし、そのまま放っていることがほとんどでした。
「出なくていいの?」と聞いても、「いいんだよ、あんなやつ放っておけば」と普段は、みんなに優しいA君とは思えない、冷たい声で言うのでした。

A君と私はお互いの家を行き来するぐらい、仲が良かったのですが、ある日、A君の家に遊びに行った帰りに、彼の家を出てすぐに、男の人に呼び止められました。
「Aの友達かい?」
私は怪しいやつだなと思いながらも、素直に「そうです」と答えると、男の人はA君の父親であると名乗りました。
確かに、言われてみれば似てなくもないかなと思いました。男の人は、もうすぐA君が誕生日だが、何をあげて良いのか分からなくて悩んでいると私に相談してきました。
私はすぐに、「それならiPhoneがいい」と、A君がiPhoneを欲しがっていることと、スマホを持っていないせいで、学校で寂しい思いをしていることを、お父さんに伝えました。

お父さんは、うなずきながら、私にお礼を言うと、「このことはAには黙っていてくれ」と念を押し、元から、なにか訪ねていく用事があったのか、A君とお母さんの住む家に向かって去って行きました。